別れもまた良し 2020/10/13
2020年 10月 13日
10月のエッセイ教室の課題は「別れ」でした。私の別れは・・・・・。
人々は終わりだの、別れだの、そういうことがなければいいのにと、よく言います。
ところが私が、日ごろお手本にしている随筆家 幸田文さんのエツセイに「別れの哀惜、終りの悲嘆に出会ったとき、人は磨かれると思う。私たちの胸には、日常ああ思いこう思う、いわば情念のごみみたいなものが山と積もっているが、別れや終りはそれを吹き払ってくれる、冷えた風のように私は思う。痛みを伴うけれど、別れとは、いいものである」と書かれた一節があります。
小さなギャラリーを営む私が、日ごろ心がけていることは作家の作品を私のギャラリーの空間でライティングなど工夫しながら、どのようにして作品の良さを浮き彫りにしようか?など、あれこれ考えて展示をしています。
時間をかけてゆっくりと作品が伝える質感や、作品の大きさから受ける印象など実物ならではの訴える力を見ていただきたいのです。アイホーンなどの画像では太刀打ちできないものが感じられることでしょう。
また来客の方々には気持ちよく十分楽しんでご覧いただけるよう心掛け、時にはお茶をいただきながら作家との会話がはずむなど、店内にはとてもいい雰囲気が漂います。店が街中より少し離れているおかげで、幸せなことに、コロナ禍以前から「三密」は十分避けられ静かに落ち着いた雰囲気を醸し出す相乗効果も得ていると思います。
そんなふうに、作品たちと日々親しく過ごしているものですから、会期中にすっかり親しくなり、作家が会期を終え作品をすべて持ち帰ってしまうと、ギャラリーの中には空虚感が漂い、水が引いたような、孫たちがかえつてしまつた後のような別れの寂しさをしみじみ感じます。
しかし次の日には別の作家の新しい作品が並び、わたくしの、目を慰めてくれます。こんなことを長年続けていますと、近頃は最初のうち、気付かなかった作品の微妙な工夫や技術の巧みさに気づくようになりました。時には「今回は気持ち良く頑張ってきました」と作品が語り掛けてくることさえあります。
こうして長い間、一回の展示会が終わるごとに作品との別れを幾度となく繰り返して寂しさを味わってきたおかげで、わたくしのぎゃらりーのオーナーとしての感性が豊かに育まれたのではないでしょうか。
夫との別れも寂しかったですが、今ではこんなに素敵な友達に恵まれ幸せそのもの。別れもいいものです、と八十五年の人生を振り返って媼はつぶやくのでした。