2021年 07月 09日
水 無 月 2021・7・9
「水無月」は陰暦の6月の異名で、陽暦では7月にあたります。しかし、京都では水無月と銘打った和菓子があります。幼いころからの私の大好物でした。
ふる里京都を離れ、岡山へ来てもう五十五年にもなり、すっかり岡山人になったようです。
だけど、近ごろ京都での生活の記憶をたどり、なつかしむことが時にあります。年老いて足腰が弱くなり、もう、以前のようにしっかり前を向いて歩けなくなったから、ついよそ見が多くなったのでしょう。
先日、六月の句会で私は『水無月のただ懐かしき甘さかな』という俳句を詠みました。それは、京都では六月になると旧暦の六月のあまり見かけることがありません。
白くプルンとした三角形の土台の上に甘煮の小豆がきれいに並んだ水無月は私の幼いころからの好物でしたから一層寂しく、年を重ねるとこんなささいなことでさえ、ふるさとを懐かしく思い出す、という思いの句です。
ところでものの本によると室町時代、六月一日には「氷の節句」という年中行事があり、この日になると御所では「氷室(氷室)」の氷を取り寄せ氷を口にして暑気を払ったそうです。
ところが庶民のほうは氷など簡単に食べられるものではないので宮中の貴族にならって氷をかたどった菓子がつくられたのが「水無月」の始まりだそうです。
「水無月」の白い三角形は氷室の氷片を表したもので、上の小豆は悪魔払いの意味を表しているということです。なるほど昔の人の生活の知恵も大したものだと感心しました。
年老いた今、こんなふうに過ぎ去った昔をいつもより、ちょっと深めにたどってみるのも楽しいもの。ひとり満足しています。
