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一日一文 

先人の励まし 2020.11.9_a0088892_17052987.jpg うとうわたくしも八十五歳になりました。このようにだんだん失っていくものがあると自覚するのは年を取らなければ分からないことです。とても寂しいことですが、あれだけ出来ていたのに、もう出来なくなったと気づきます。自分というものの限界を知るのです。

  

はいっても、今まで自分が持っていたプライドが一つひとつはぎとられて行って、若い人たちの活躍を喜ぶことができる自分になることや、他人に頭を下げて生きていかねばならない現実を素直に謙虚に受け止めていくことは口で言うほど、とてもとても生やさしくはありません。そんな折、わたくしをなだめ、落ち着かせて、励ましてくれるのは読書です。


岸節子さんの画集を見ていると、彼女のたゆまぬ精進ぶりがうかがわれ、三岸さんが九十三歳の時に描かれたという「さくら」の絵には、長い歳月を生き抜かれた人だけが持つことのできるおおらかな明るさがあり、たちまち安堵感が満ちてきて、気持ちもシャンとしてくるのでした。


た堀尾真紀子著「女性画家⒑のさけび」のページを開くと、自立した女性の草分けでもあり、背筋の通った明治女性の小倉遊亀さんの「画人像」の挿し絵から、松園の美人画とは違って個性やその人の生活ぶりまでも伝わってくる躍動感が伝わり元気が湧いてきます。


の著書の「あとがき」に「生きる歓びも悲しみも苦労を克服することから生まれ、人生の陰影を濃くし、かけがえのないものにするのです。」と、今の私にうってつけの一文がありました。まさに私の萎えた気持ちをいやすのに十分でた。まるで本の活字から、行間から「佐藤さん、がんばって!」とエールが聞こえてくるようです。


 もそも、読書は知識と教養のためであり、エールはスポーツ競技の時に送る励ましの大きな声援のことだと思っていたものですから、こんな身近なところに、音もなく無言で頼もしいエールがあるとは、今まで気づきませんでした。

の気づきは八十五歳になったわたくしのほのかな心の恵みのようです。ぼちぼちと読書を楽しみながら、前向きの心で、つまずかないよう、つえを突きつつ、ゆるり、ゆるりと歩むとしましょう。


# by gallery-sato | 2020-12-09 18:16

三途の川のせせらぎの音 2020.11.11._a0088892_09011511.jpg
 それにしても、この夏の猛暑はすさまじいものでした。
日本の季節は変わってしまったのか、空を仰がずにはいられない気分に襲われました。けれども昨日あたりからめっきり涼しくなり平常な秋が迎えられしみじみと日本人であることの幸せを感じるこの頃です。さらに、こんな幸せな出来事もありました

 過日、その暑い暑い夏の盛りに、ご自分の作品創りについて熱く語って帰っていった若い男性作家がありました。

その時、別れ際に「もし個展がご希望なら、しっかりいい作品をお創りになって、早く見せに来てね。わたくしも年だから、三途の川のせせらぎの音が聞こえ始めているので、急がないと間に合いませんよ」と。

すると、その青年は「佐藤さん、大丈夫ですよ。僕がそのせせらぎの音を消してあげましょう」というのです。

「本当かしら、だったらうれしいわ」。若い青年の言葉に年老いた私はほのぼのと恋心のきざしのようなときめきすら感じながら、頼もしく、ほほえましく受け止めていました。

 その後、半年ほどたったついこの間のことです。その青年がいろいろ自らの創意・工夫を重ねたと見受けられる試作作品を持ってやってきました。若い男の子らしく黑と白を基調にしたかなりモダンな雰囲気を保ちながら力強く凛とした作品でした。私はすぐに、これなら大丈夫。来年春をメドに個展を開きましょうと約束を交わしました。

 青年が帰った後、ふと我れに返って思うのでした。「あら、例の三途の川のせせらぎの音が私の脳裏から消えたようだわ」と。おそらくあの青年の成長を見届けたいという思いが、もう少し生きてみましょう、という強い願望に変化したに違いないと思えます。

「三途の川のせせらぎの音を止めてあげましょう」というたわいない約束が現実になるなんて、そんな感動はめったに味わえるものではありません。八十五歳への恵みのようです。

長生きして、淡いときめきとともにあの頼もしい青年の成長を見届けなくては、と思うことしきりなこの頃です。

三途の川のせせらぎの音 2020.11.11._a0088892_09004395.jpg











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# by gallery-sato | 2020-11-11 17:08